いつでもどこでも・あの人流
自分好みの濃さで楽しむインスタントコーヒー
執筆活動を支える目覚めの1杯
小説家・フランス文学研究者 小野正嗣さん
Interview
コーヒーはどんなときに飲まれるのでしょう?
小野まず、朝の1杯。空っぽの胃にクッキーやチョコなど甘いものと合わせて飲むと、エネルギーが体全体に行き渡る感じがします。最近は朝と昼、午後の3杯に抑えるようにしていますが、多いときは1日5~6杯は飲んでいました。朝起きてすぐコーヒー、夜も仕事中はコーヒー。飲んだからといって、眠れなくなる体質ではありませんから。ほかに書店やイベントなど人前に出るときも飲みます。水やお茶でもいいのですが、イベント前には気合を入れるためにコーヒーを飲みたいですよね。用意された飲みもののラインナップを見て水やお茶ばかりだと、つい「コーヒーありませんか?」と聞いちゃいます。コーヒーは飲むと目が覚める、僕にとってカツを入れるための飲みものですから。と、言いながらも、イベントや緊張する場面が終わった後も、飲んでますけどね。ホッとひと息ついたときも。
文学祭で海外を訪れる機会も多いと思います。そのときはどうされてますか?
小野滞在するホテルの部屋に入ったら、まずインスタントコーヒーが備えられているか確認します。僕は朝起きたら、すぐにコーヒーを飲みたいんです。もちろん、朝食をとりにレストランに行けばコーヒーは飲めますが、最初の1杯は部屋で飲みたい。だから、部屋にスティックタイプのインスタントコーヒーがあるのを見つけるとホッとしますし、そのときほどありがたみを感じることはないです。それに、スティックタイプのインスタントコーヒーだと自分好みの濃さに調節できるのもいい。目を覚ますためにも朝の1杯は濃いほうがいいので、規定よりもお湯を少なめに入れて溶いて飲みます。インスタントコーヒーは、旅先や場所を選ばず楽しめるのでいいですね。
そこまでコーヒーを愛飲しはじめたきっかけを教えてください。
小野フランス留学時代、住んでいた家のご主人のクロードさんが、「コーヒーがないと1日がはじまらない」人だったからだと思います。それまではコーヒーは喫茶店で友だちと飲むものでした。それがフランスに留学してから、家で毎朝コーヒーを飲んで頭を働かせることが習慣になったと思います。そういえば、僕が旅行に行くときに彼が「朝コーヒーを飲めないと困るだろう」とインスタントコーヒーを持たせてくれたこともありましたね。
ほかにインスタントコーヒーの思い出はありますか?
小野東京での大学や大学院生時代は、親がお中元で届いたインスタントコーヒーを送ってくれたので、それを飲んでいましたね。でも、インスタントコーヒーというと思い出すのは兄のこと。兄はコーヒーが大好きで、銘柄にこだわりもなく、家にあるインスタントコーヒーを普通の湯呑で飲んでいました。兄は数年前に46歳で亡くなりましたが、今でも実家の両親は毎朝いちばんに、湯飲みに入れたインスタントコーヒーを仏壇に供えています。高校生のころ、僕にとってコーヒーはただ苦いもので、しかも甘いものも好きではなかったから、インスタントコーヒーに砂糖を入れて飲んでいる兄を見て、「よく飲めるなぁ」と思っていたものです。それが、いまや仕事をはじめる前や小説を書きはじめる前に1杯と、気合を入れる飲みものに。僕の日常にないと困る飲みもののひとつが、コーヒーです。
Afterword
- 研究室で愛用しているカップは、出演中の『日曜美術館』の取材で訪ねた作家さんが作られた作品で、その場で買わせていただきました。ほどよい重さで手になじむところが気に入っています。
- フランス留学8年間のうち、5年間暮らしたオルレアンのクロードさんとエレーヌさん夫婦の家です。キッチンからこんな庭の風景を眺めながら、クロードさんと文学や芸術について朝から話していました。
Profile小野正嗣さん
大分県出身。小説家・フランス文学研究者。
『水に埋もれる墓』で朝日新人文学賞、『にぎやかな湾に背負われた船』で三島由紀夫賞、『九年前の祈り』で芥川龍之介賞受賞。訳書に『アイデンティティが人を殺す』(アミン・マアルーフ)、『三人の逞しい女』(マリー・ンディアイ)がある。2018年より『日曜美術館』(NHK)にキャスターとして出演。現在は早稲田大学の教授もつとめる。
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